遺産分割の対象

遺産分割の対象となるのは、死亡時に存在し、遺産分割の時にも存在している被相続人の財産のみです。

また、死亡時に存在し、遺産分割の時に存在する財産であっても、財産の性質によっては、遺産分割の対象にならないものもあります。

遺産分割の対象にならないものは、原則として遺産分割の中で扱うことはできません。

もっとも、遺産分割の対象にならないものであっても、遺産分割に付随する問題として、遺産分割協議・調停・審判それぞれの場面において、扱うことができることもあります。

①どの財産が遺産分割の対象になるかについての理解、②遺産分割の対象にならないものに関する問題をどのように解決するのかについての見極めは、遺産分割を円滑・迅速に進めるうえで極めて重要です。

遺産分割の対象になる財産を確定できないと、遺産分割の複雑化・長期化を招くことになります。

以下、よく問題となる財産ごとに説明します。

条文の番号は、特に断りのない限り民法のものです。

不動産

不動産(土地・建物)は遺産分割の対象になります。

被相続人名義の不動産は、市役所などから名寄帳を取り寄せることで確認することができます。

不動産を賃貸・賃借していた場合、賃料や賃借権が遺産分割の対象になるかが問題となります。

不動産を賃貸していた場合

被相続人が不動産を賃貸していた場合、賃料は遺産分割の対象にはならず、各相続人が相続分に従って取得します(最高裁平成17年9月8日)。

もっとも、相続人全員の合意があれば、遺産分割(協議・調停・審判)で扱うこともできます。

不動産を賃借していた場合

被相続人が不動産を賃借していた場合、不動産の賃借権も遺産分割の対象になります(大審院大正13年3月13日)。

もっとも、公営住宅を使用する権利は、相続の対象とはならないため、遺産分割の対象にもなりません(最高裁平成2年10月18日)。

配偶者居住権

配偶者居住権とは、被相続人の配偶者が、一定の期間、無償で自宅を使用・収益できる権利です(1028条1項)。

配偶者居住権は、令和2年4月1日以降に被相続人が死亡した場合に適用され(附則10条1項)、令和2年4月1日より前にされた遺贈には適用されません(附則10条2項)。

配偶者居住権については、こちらのページをご覧ください。

預貯金・定期積金

預貯金(普通預金・通常貯金・定期預金・定額貯金)・定期積金は遺産分割の対象になります(最高裁平成28年12月19日、最高裁平成29年4月6日)。

そのため、遺産分割が終了するまでは、原則として、預貯金を払い戻すことはできません。

もっとも、遺産分割前に預貯金を払い戻す制度もあります。

相続人は、単独で、銀行に対して取引経過の開示を請求することができるため(最高裁平成21年1月22日)、被相続人名義の預貯金は、銀行から取引経過を取り寄せることで確認することができます。

なお、預金契約が解約されている場合、銀行は、元預金者に対し、過去の預金契約について、預金契約中と同内容の取引経過開示義務を負い続けることはないとした裁判例もあります(東京高裁平成23年8月3日)。

被相続人の死亡後に発生した預貯金の利息は、被相続人の死亡時に存在した財産ではないため、遺産分割の対象にはならず、各相続人が相続分に従って取得します。

もっとも、相続人全員の合意があれば、遺産分割(協議・調停・審判)で扱うこともできます。

現金

現金は遺産分割の対象になります。

相続人は、遺産分割までの間、相続開始時にあった現金を保管している他の相続人に対し、自己の相続分に相当する金銭の支払いを請求することはできません(最高裁平成4年4月10日)。

株式

株式は遺産分割の対象になります(最高裁平成26年2月25日)。

被相続人の死亡後に発生した配当金は、被相続人の死亡時に存在した財産ではないため、遺産分割の対象にならず、各相続人が相続分に従って取得します。

もっとも、相続人全員の合意があれば、遺産分割(協議・調停・審判)で扱うこともできます。

投資信託

投資信託は遺産分割の対象になります(最高裁平成26年2月25日)。

被相続人の死亡後に発生した投資信託の元本償還金・収益分配金の交付を受ける権利も、遺産分割の対象になります(最高裁平成26年12月12日)。

国債

個人向け国債は、遺産分割の対象になります(最高裁平成26年2月25日)。

共有持分権

共同相続人が取得する遺産の共有持分権は、遺産分割の対象になります(最高裁平成17年10月11日)。

例えば、被相続人Aが死亡し、Aの遺産分割が未了の間にAの相続人でもあるBも死亡した場合、Bは、Aの死亡によりAの遺産について相続分に応じた共有持分権を取得します。

したがって、Bが取得したAの遺産の共有持分権はBの遺産となり、これをBの共同相続人が取得するためには、遺産分割をする必要があります。

貸金返還請求権・損害賠償請求権などの金銭債権

貸金返還請求権・損害賠償請求権・不当利得返還請求権など、被相続人が金銭の支払いを求める債権は、遺産分割の対象にならず、各相続人が相続分に従って取得します。

もっとも、相続人全員の合意があれば、遺産分割(協議・調停・審判)で扱うこともできます。

生前に払い戻された預貯金

被相続人の生前に払い戻された預貯金は、被相続人の死亡時に存在しないことから、遺産分割の対象にはなりません。

例えば、相続人が被相続人に無断で払戻しを行い、自己のために払い戻した預貯金を使ってしまったような場合でも、払い戻された預貯金は遺産分割の対象にはなりません。

もっとも、(預貯金を払い戻した相続人を含め)相続人全員の合意があれば、遺産分割(協議・調停・審判)で扱うこともできます。

預貯金を払い戻した相続人が使いみちを明確にしない場合などは、いわゆる使途不明金の問題として、払戻しを行った相続人に対して不当利得返還請求(703条)・不法行為に基づく損害賠償請求(709条)など民事裁判の手続きにおいて解決することになります。

また、払い戻された預貯金が相続人に贈与されていた場合も遺産分割の対象にはなりませんが、特別受益として考慮されることがあります。

死亡後に払い戻された預貯金

被相続人の死亡後に払い戻された預貯金は、遺産分割の時に存在しないことから、遺産分割の対象にはなりません。

もっとも、預貯金を払い戻した相続人が取得したことを認めた場合、その相続人以外の相続人全員の同意があれば、遺産分割の対象になります(906条の2第2項)。

これに対し、預貯金を払い戻した相続人が使いみちを明確にしない場合などは、いわゆる使途不明金の問題として、払戻しを行った相続人に対して不当利得返還請求(703条)・不法行為に基づく損害賠償請求(709条)など民事裁判の手続きにおいて解決することになります。

遺産管理費用

遺産管理費用とは、遺産の保存・利用・改良のための費用をいいます。

具体的には、固定資産税・地代・家賃、火災保険料、水道料金、電気代、管理費、建物の修繕費用など、賃借人に対する立退料などです。

遺産分割の対象になるか

遺産管理費用が遺産分割の対象となる(遺産分割の際に遺産から清算される)との考え方もあります。

しかし、遺産管理費用は、相続開始後に発生した債務であり、遺産そのものとは別個のものですから、遺産分割の対象にはならない(遺産分割の際に遺産から清算されない)との考え方が主流です。

もっとも、相続人全員が遺産分割の対象とするとの合意があれば、遺産分割(協議・調停のみ)で扱うこともできます(審判では扱うことはできません。)。

遺産管理費用の清算方法

遺産管理費用は、相続開始後に発生した債務であり、被相続人の債務ではありません。

しかし、相続財産に関する費用(遺産管理費用・遺言執行者の報酬・相続放棄後の財産管理費用など)は、相続財産の中から支出するとされており(885条本文)、遺産管理費用は被相続人の債務に準じるものと考えられます。*

したがって、遺産管理費用は、共同相続人が相続分に応じて負担することになります。

例えば、相続人のひとりが固定資産税を支払った場合、他の相続人に対して相続分に応じて求償請求できます。

葬儀費用は喪主が負担するもの、相続税は相続人が負担するものであり、それぞれ相続財産に関する費用(885条本文)には含まれないと考えられます。

生命保険金

被相続人を被保険者とする生命保険金は、以下のように遺産分割の対象にはなりません。

もっとも、多額の保険金を取得した場合、特別受益として考慮されることもあります。

特定の相続人が保険金受取人に指定されている場合

被相続人(保険契約者)が、被相続人を被保険者とし、特定の相続人を保険金受取人に指定した場合、生命保険金は指定された相続人の固有財産となります(最高裁昭和40年2月2日)。

したがって、遺産分割の対象にはなりません。

被保険者又はその死亡の場合はその相続人が保険金受取人に指定されている場合

被相続人(保険契約者)が、被相続人を被保険者とし、「被保険者又はその死亡の場合はその相続人」と約定し、保険金受取人を特定せずに抽象的に指定している場合も、生命保険金は相続人の固有財産となります(最高裁昭和40年2月2日)。

したがって、遺産分割の対象にはなりません。

そして、保険金受取人を「相続人」と指定した場合、原則として、相続人が受け取る権利の割合を相続分の割合にするという指定も含まれていると考えられます(最高裁平成6年7月18日)。

したがって、各相続人は、法定相続分の割合により生命保険金を取得します。

保険金受取人が指定されていない場合

約款に「保険金受取人の指定のないときは、保険金を被保険者の相続人に支払う」との条項があれば、保険金受取人を相続人に指定したのと同じことになり、生命保険金は相続人の固有財産となります(最高裁昭和48年6月29日)。

したがって、遺産分割の対象にはなりません。

債務

被相続人の債務は、被相続人の死亡により各相続人に相続分に応じて承継され(最高裁昭和34年6月19日)、遺産分割の対象にはなりません。

もっとも、相続人全員の合意があれば、遺産分割(協議・調停のみ)で扱うこともできます(審判では扱うことはできません。)。

葬儀費用

葬儀費用(棺柩その他の祭具・葬儀場の設営・読経・火葬・墓標の費用、通夜・告別式の参列者の飲食代、納骨代など)は、相続開始後に生じた債務であり、相続財産に関する費用(885条)ともいえません。

したがって、遺産分割の対象にはなりません。

もっとも、相続人全員の合意があれば、遺産分割(協議・調停のみ)で扱うこともできます(審判では扱うことはできません。)。

葬儀費用は、原則として喪主が負担すると考えられます。

祭祀財産

祭祀財産とは、系譜(家系図)、祭具(位牌・仏壇)、墳墓(墓石・墓碑)をいいます(897条)。

祭祀財産は、祖先の祭祀を主宰すべき者が承継し(897条1項本文)、遺産分割の対象にはなりません。

もっとも、相続人全員の合意があれば、遺産分割(協議・調停のみ)で扱うこともできます(審判では扱うことはできません。)。

祭祀承継者を決める方法については、こちらのページで説明します。