所在等不明共有者の持分取得・持分譲渡権限の付与

民法が改正され、所在等が不明な者の共有持分を取得する裁判(改正民法262条の2)や共有持分を譲渡する権限を付与する裁判(改正民法262条の3)ができるようになりました。

改正後の民法は令和3年4月28日から2年以内に施行されることになっていましたが(改正民法附則1条本文)、「民法等の一部を改正する法律の施行期日を定める政令」(令和3年12月14日閣議決定)により、令和5年4月1日に施行されることになりました。

所在等不明共有者の持分取得の裁判

不動産が数人の共有の共有となっている場合において、所在等が不明な共有者がいるときは、裁判所が、共有者に持分を取得させることができる制度です(改正民法262条の2)。

要件

  • 不動産が数人の共有に属すること

    「不動産が数人の共有に属する場合」には、通常の共有だけでなく遺産共有の場合も含まれます。

もっとも、遺産共有の場合、相続開始の時から10年を経過しなければ、所在等が不明な共有者の持分取得の裁判はできません(改正民法262条の2第3項)。

  • 他の共有者を知ることができないか、その所在を知ることができないこと

    「他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき」には、共有者のひとりが死亡し、相続人が明らかでない場合も含まれると考えられます。
  • 供託

    裁判所が所在等不明共有者の持分取得の裁判を行うには、供託金の供託が必要です(改正非訟事件手続法87条5項・8項)。

供託金の額は、必ずしも共有持分の客観的な時価と一致するわけではなく、供託額が時価相当額に充たない場合、その差額を請求することができます。

もっとも、供託金の額も、時価相当額を基準に決定すべきであり、裁判所は、不動産鑑定士の評価書、固定資産税評価証明書、不動産業者の査定書などをもとに供託金の額を判断すると考えられます。

効果

  • 持分移転

申立てをした共有者が所在等不明共有者の持分を取得します(改正民法262条の2第1項後段参照)。

  • 時価相当額支払請求

申立てをした共有者が所在等不明共有者の持分を取得した場合、所在等不明共有者は、申立てをした共有者に対し、申立てをした共有者が取得した持分の時価相当額の支払いを請求できます(改正民法262条の2第4項)。

この点、共有持分は、使用・収益・処分が制限され、又は共有物の分割のために時間的・経済的負担を伴うことから、競売では共有持分の評価額を減価(2割程度と考えられます。)することがあります。

そこで、所在等不明共有者の持分取得制度においても、申立てをした共有者が持分を取得した結果として単独所有者となる場合は共有減価しないのに対し、共有関係が解消しない場合は共有減価することも考えられます。

また、所在等不明共有者は、供託金の還付を受けることができ、これを時価相当額の支払いに充当することができます。

手続

  • 共有者による申立て

共有者が、裁判所に対し、所在等不明共有者の持分を取得する裁判の申立てをすることで手続きが開始します(改正民法262条の2第1項前段)。

  • 公告

申立てがあった場合、裁判所は、所在等不明共有者に異議の機会を与えるため、次のような公告をします(改正非訟事件手続法87条2項各号)。

  1. 所在等不明共有者の持分を取得する裁判の申立てがあったこと
  2. 所在等不明共有者が、所在等不明共有者の持分取得の裁判に異議があるときは、一定の期間までに届出をすべきこと
  3. 所在等不明共有者以外の共有者が、所在等不明共有者の持分取得の裁判に異議があるときは、一定の期間までに届出をすべきこと
  4. 2.3.に異議がないときは、裁判所が所在等不明共有者の持分取得の裁判をすること
  5. 申立てをした共有者以外の共有者が所在等不明共有者の持分取得の裁判の申立てをするときは一定の期間内にその申立てをすべきこと
  • 所在等不明共有者以外のへの通知

裁判所は、公告をした場合、遅滞なく不動産登記上の氏名・名称が判明している共有者に対し、公告すべき事項(所在等不明共有者以外の共有者に対する通知であるため、2.を除きます。)を通知します(改正非訟事件手続法87条3項前段)。

この通知は、通知を受ける者の登記簿上の住所又は事務所に宛てて発すれば足ります(改正非訟事件手続法87条3項後段)。

  • 供託命令

裁判所は、所在等不明共有者の持分取得の裁判をするにあたり、申立てをした共有者に対し、一定の期間内に、所在等不明共有者のために、裁判所が定める額の金銭を裁判所の指定する供託所に供託し、かつ、届出をすることを命じます(改正非訟事件手続法87条5項)。

  • 持分取得決定

異議の期間が経過し、供託がないなどの却下事由が認められない場合、裁判所は、所在等不明共有者の持分取得の裁判をします(改正非訟事件手続法87条2項4号参照)。

共有物分割・遺産分割との関係

所在等不明共有者の持分取得の申立てがあった不動産について、共有物分割または遺産分割の請求があり、かつ、所在等不明共有者以外の共有者が異議の届出をした場合、裁判所は、所在等不明共有者の持分取得の裁判をすることはできません(改正民法262条の2第2項)。

このような場合、所在等不明共有者の持分も含めて共有物全体について適切な分割をすべきであると考えられるためです。

なお、所在等不明共有者の持分譲渡権限を付与する裁判の場合、このような制限はありません。

また、所在等不明共有者の持分が相続財産に属する場合(共同相続人間で遺産分割をすべき場合に限ります。)、相続開始のときから10年を経過するまでは、裁判所は、所在等不明共有者の持分取得の裁判をすることはできません(改正民法262条の2第3項)。

所在等不明共有者の持分譲渡権限を付与する裁判

不動産が数人の共有となっている場合において、所在等が不明な共有者がいるときは、裁判所が、共有者に持分を譲渡する権限を付与できる制度です(改正民法262条の3)。

要件

  • 不動産が数人の共有に属すること

「不動産が数人の共有に属する場合」には、通常の共有だけでなく遺産共有の場合も含まれます。

もっとも、遺産共有の場合、相続開始の時から10年を経過しなければ、所在等不明共有者の持分譲渡権限を付与する裁判はできません(改正民法262条の3第2項)。

  • 他の共有者を知ることができないか、その所在を知ることができないこと

「他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき」には、共有者のひとりが死亡し、相続人が明らかでない場合も含まれると考えられます。

  • 供託

裁判所が所在等不明共有者の持分取得決定を行うには、供託金の供託も必要です(改正非訟事件手続法88条2項、87条5項・8項)。

効果

  • 持分譲渡権限の付与

申立てをした共有者に所在等不明共有者の持分を譲渡する権限が付与されます(改正民法262条の3第1項参照)。

もっとも、申立てをした共有者が、裁判の効力が生じた後2か月以内に、その権限を行使しない場合、裁判は効力を失います(改正非訟事件手続法87条3項本文)。

裁判所は、この期間を伸長することができますが(改正非訟事件手続法87条3項但書)、伸長はあくまで例外的に認められるものであり、譲渡の見込みがあり、それほど間を置かずに譲渡できる場合に限られると考えられます。

また、持分譲渡権限を付与する裁判は、所在等不明共有者以外の共有者全員が自己の持分を譲渡することが停止条件となっています(改正民法262条の3第1項)。

そのため、申立てをした共有者は、所在等不明共有者の譲渡だけでなく、他の共有者の持分の譲渡も期間内に完了させる必要があります。

  • 時価相当額支払請求

申立てをした共有者が、所在等不明共有者の持分を第三者に譲渡した場合、所在等不明共有者は、譲渡をした共有者に対し、不動産の時価相当額を所在等不明共有者の持分に応じて按分して得た額の支払いを請求できます(改正民法262条の3第3項)。

この点、所在等不明共有者の持分取得の裁判では、申立てをした共有者が持分を取得した結果として単独所有者となる場合は共有減価せず、共有関係が解消しない場合は共有減価することも考えられます。

しかし、所在等不明共有者の持分譲渡権限を付与する裁判では、「所在等不明共有者の持分の時価」ではなく、「不動産の時価相当額を所在等不明共有者の持分に応じて按分した額」とされていること(改正民法262条の3第3項)、共有物の全体が譲渡されることが予定されていることから、共有減価されません。

手続

  • 共有者による申立て

共有者が、裁判所に対し、所在等不明共有者の持分譲渡権限を付与する裁判の申立てをすることで手続きが開始します(改正民法262条の3第1項前段)。

  • 公告

申立てがあった場合、裁判所は、所在等不明共有者に異議の機会を与えるため、次のような公告をします(改正非訟事件手続法88条2項、87条2項1号・2号・4号)。

  1. 所在等不明共有者の持分について持分譲渡権限を付与する裁判の申立てがあったこと
  2. 所在等不明共有者が、所在等不明共有者の持分譲渡権限を付与する裁判に異議があるときは、一定の期間までに届出をすべきこと
  3. 2.の届出がないときは、裁判所が所在等不明共有者の持分譲渡権限を付与する裁判をすること
  • 供託

裁判所は、所在等不明共有者の持分譲渡権限を付与する裁判をするにあたり、申立てをした共有者に対し、一定の期間内に、所在等不明共有者のために、裁判所が定める額の金銭を裁判所の指定する供託所に供託し、かつ、届出をすることを命じます(改正非訟事件手続法88条2項、87条5項)。

  • 裁判所の決定

異議の期間が経過し、供託金が供託されないなどの却下事由が認められない場合、裁判所は、所在等不明共有者の持分譲渡権限を付与する裁判をします(改正非訟事件手続法88条2項、87条2項4号参照)。

共有物分割・遺産分割との関係

所在等不明共有者の持分が相続財産に属する場合、相続開始のときから10年を経過するまでは、裁判所は、所在等不明共有者の持分譲渡権限を付与する裁判はできません(改正民法262条の3第2項)。

なお、所在等不明共有者の持分取得の申立てがあった不動産について、共有物分割または遺産分割の請求があり、かつ、所在等不明共有者の以外の共有者が異議の届出をした場合、裁判所は、所在等不明共有者の持分取得の裁判をすることはできませんが(改正民法262条の2第2項)、所在等不明共有者の持分譲渡権限を付与する裁判では、そのような制限はありません。