祭祀財産

祭祀財産とは、祖先を祭るために必要な財産です。

以下、祭祀財産となるものなどについて説明します。

条文の番号は、特に断りのない限り民法のものです。

祭祀財産とは

系譜・祭具・墳墓

民法では、系譜・祭具・墳墓が祭祀財産とされています(897条)。

  • 系譜は、歴代の家長を中心に先祖伝来の系統(家系)を表示するものです。
    具体的には、家系図や過去帳などです。
  • 祭具は、祖先の祭祀や礼拝の要に供されるものです。
    具体的には、仏壇・神棚・位牌・霊位などです。
  • 墳墓は、遺体や遺骨を葬っている設備です。
    具体的には、墓石・墓碑・埋棺などです。

<大阪家裁平成28年1月22日>

民法897条1項本文は、系譜、祭具及び墳墓の所有権について、相続財産を構成せず、祖先の祭祀を主宰すべき者が承継することを定めている。
系譜とは歴代の家長を中心に祖先以来の系統(家系)を表示するものであり、祭具とは祖先の祭祀、礼拝に供されるもの(位牌、仏壇等)であり、墳墓とは遺体や遺骨を葬っている設備(墓石、墓碑等)である…。

墓地

墓石・墓碑などの設備だけでなく、墓地の所有権(広島高裁平成12年8月25日)や墓地の使用権(大阪高裁昭和59年10月15日)についても、「墳墓」に含まれると考えられます。

<大阪高裁昭和59年10月15日>

墓地使用権は地上の墓標所有権に付随するもので、墓標の存する限り両者は密接不可欠の関係にあるから、墓地使用権は、祭祀財産たる墳墓と一体視すべきものと解すべく…

<広島高裁平成12年8月25日>

民法897条1項は、「系譜、祭具及び墳墓の所有権は、……祖先の祭祀を主宰すべき者がこれを承継する。」と規定しているところ、墓地が墳墓として祭祀財産となるか否かが問題となる。
墳墓は、遺骸や遺骨を葬っている設備である、いわゆる墓石等をいい、墓地は、その墳墓を所有するための敷地であるので、墳墓と墓地とは、一応、別の客体ということかできる。
しかしながら、墳墓が墳墓として遺骨などを葬る本来の機能を発揮することかできるのは、墳墓の敷地である墓地が存在することによるのであって、墳墓がその敷地である墓地から独立して墳墓のみで、その本来の機能を果たすことかできないことを考慮すると、社会通念上一体の物ととらえてよい程度に密接不可分の関係にある範囲の墳墓の敷地である墓地は、墳墓に含まれると解するのが相当である。
したがって、墳墓と社会通念上一体の物ととらえてよい程度に密接不可分の関係にある範囲の墳墓の敷地である墓地は、民法897条に規定する墳墓として祭祀財産と解される。

遺骨

被相続人の遺骨は、祭祀財産そのものではありませんが、祭祀財産に準じるものであると考えることができます(東京家裁平成21年3月30日、前掲大阪家裁平成28年1月22日)。

<東京家裁平成21年3月30日>

被相続人Dの遺骨は、生前の被相続人Dに属していた財産ではないから、相続財産を構成するものではなく、民法897条1項本文に規定する祭祀財産にも直接は該当しないというべきである。
しかしながら、遺骨についての権利は、通常の所有権とは異なり、埋葬や供養のために支配・管理する権利しか行使できない特殊なものであること、既に墳墓に埋葬された祖先の遺骨については、祭祀財産として扱われていること、被相続人の遺骨についても、関係者の意識としては、祭祀財産と同様に祭祀の対象として扱っていることなどからすると、被相続人の遺骨についても、その性質上、祭祀財産に準じて扱うべきものと解するのが相当である。
したがって、被相続人の指定又は慣習がない場合には、家庭裁判所は、被相続人の遺骨についても、民法897条2項を準用して、被相続人の祭祀を主宰すべき者、すなわち遺骨の取得者を指定することができるものというべきである。

相続との関係

祭祀財産は相続の対象になりませんが、相続とは密接な関係があります。

  • 祭祀財産は、被相続人の指定や慣習により祖先の祭祀を主宰すべき者が承継し(897条1項)、遺産分割の対象にはなりません。
  • 祭祀を承継したからといって相続分が増えたり、祭祀を承継しないからといって相続分が減ったりすることはありません(東京高裁昭和28年9月4日)。
  • 祭祀財産は、相続分や遺留分侵害額請求権の算定の際に考慮されません。
  • 相続放棄をしても、祭祀財産を承継することはできます。

<東京高裁昭和28年9月4日>

相続人は、祖先の祭祀をいとなむ法律上の義務を負うものではなく、共同相続人のうちに祖先の祭祀を主宰するものがある場合他の相続人がこれに協力すべき法律上の義務を負うものではない。
祖先の祭祀を行うかどうかは、各人の信仰ないし社会の風俗習慣道徳のかかわるところで、法律の出る幕ではないとするのが現行民法の精神であって、ただ祖先の祭祀をする者がある場合には、その者が遺産中祭祀に関係ある物の所有権を承継する旨を定めているだけである(民法897条第1項)。
したがって、利害関係人両名が本件家屋内において、仏壇その他を整えて被相続人サノの祭祀を行っているからといっても、抗告人らにおいて利害関係人らの行う右祭祀に協力し、将来これを継続するに要する費用を分担すべき法律上の義務あるものではない
原審判が抗告人らに分割すべき本件遺産中から将来の祭祀料として金5万円を控除したことは不当といわなくてはならない。