推定相続人の廃除

推定相続人の廃除とは、以下のいずれかに該当する場合に、被相続人の意思により、推定相続人の相続権を奪う制度です(民法892条)。

  • 被相続人に対する虐待
  • 被相続人に対する重大な侮辱
  • 推定相続人の著しい非行

推定相続人の廃除の意思表示は遺言によってもできます(民法893条)。

推定相続人の廃除は、相続権を奪うという重大な効果があるため、被相続人の主観的な判断だけでは足りず、客観的に被相続人との間の関係を破壊する程度のものであることが必要です。

被相続人に対する虐待

虐待とは、被相続人に対する暴力や精神的苦痛を与えることをいいます。

この点、以下のような裁判例があります。

  • 抗告人が受けた暴行・傷害・苦痛は、相手方・Tだけに非があるとはいえず、抗告人にもかなりの責任があるから、その内容・程度と前後の事情を総合すれば、いまだ相手方の相続権を奪うことを正当視する程度に重大なものと評価するに至らず、結局廃除事由に該当しないとした裁判例(名古屋高裁金沢支部平成2年5月16日)
  • 妻の遺言執行者が夫を相手方として申し立てた推定相続人廃除申立事件において、夫は、末期がんを宣告された妻が手術後自宅療養中であったにもかかわらず、療養に極めて不適切な環境を作出し、妻にこの環境の中での生活を強いたり、その人格を否定する発言をするなどした行為は虐待と評価するほかなく、その程度も甚だしいところ、妻は死亡するまで夫の離婚につき強い意志を有し続けていたといえるから廃除を回避すべき特段の事情も見当たらないとした裁判例(釧路家裁北見支部平成17年1月26日)

<名古屋高裁金沢支部平成2年5月16日>

抗告人は、相手方とTから共同で虐待された、少くとも相手方やTの言動は、抗告人を精神的に苦しめるもので、実質的な虐待であること及び相手方は、平成2年3月頃抗告人が肩書地の金庫に保管していた50万円を窃取したことを理由に、相手方には廃除の事由がある旨主張する。
しかしながら、推定相続人の廃除は、相続的協同関係が破壊され、又は破壊される可能性がある場合に、そのことを理由に遺留分権を有する推定相続人の相続権を奪う制度であるから、民法892条所定の廃除事由は、被相続人の主観的判断では足りず、客観的かつ社会通念に照らし、推定相続人の遺留分を否定することが正当であると判断される程度に重大なものでなければならないと解すべきである。
そこで、これを本件についてみるのに、…なるほど抗告人と相手方とは、抗告人とTとの不和を契機にTがSの看病の手伝いをせず抗告人のみに任せたことから、次第に日常生活における円満を欠くようになって家族内で抗告人を孤立化させて寂しい思いをさせ、また、相手方らにおいて抗告人に反抗し、物を投げつけたり、制止のためとはいえ、老人に対し暴力を行使し、傷害を与えたことは些細なことと無視できるものではない。
しかしながら、そのような暴行・傷害・精神的虐待の直接の原因は、抗告人の繰り返しの非難・謝罪要求にある…。
即ち抗告人は、妻Sが死亡したのはTが看病してくれなかったためであると言い続けている。
確かに、暖い家族のもとでの看護は病状を好転させることもあると考えられ、妻に先き立たれた抗告人の無念・悲しみは察して余りあるが、運命ということもあるのであって、医学的に明白であればともかく、Sの死をTの不協力が原因ときめつけるのは根拠不十分である。
したがって、その意味での謝罪要求にTや相手方が応じなかったことを非難できない。
もっとも、寝たきりの妻を一人で看病していた抗告人が途中でTに協力を依頼すれば、これに応ずるのが同居親族の義務であるといえる。
したがって、Tが抗告人の求めを全面的に拒否したのは相当でないし、相手方がその間の調整役割を果さなかったことも結果的によくなかった。
しかし、抗告人は、頼み方に問題があったとも思われるうえ、Tらに非があったにせよ、その後長期にわたり、子や夫のいる前で繰り返し言及し、直接的かつ強硬に非難を加え、反省・謝罪を要求し、これに応じないと興奮しては攻撃を加えるという方式は、よりよき家族関係を希ったうえでのことであろうが、行き過ぎで効果はない。
抗告人は、家族から無視され精神的虐待を受けたと主張するが、抗告人が孤立したことは、家庭内不和の結果であって、前記抗争とは別の行為とは認め難いからこれをもって別個の廃除事由とみることはできない。
以上のとおり、抗告人が受けた暴行・傷害・苦痛は、相手方・Tだけに非があるとはいえず、抗告人にもかなりの責任があるから、その内容・程度と前後の事情を総合すれば、いまだ相手方の相続権を奪うことを正当視する程度に重大なものと評価するに至らず、結局廃除事由に該当するものとは認められない。

<釧路家裁北見支部平成17年1月26日>

相手方は、被相続人が末期ガンを宣告された上、手術も受けて退院し自宅療養中であったにもかかわらず、平成12年3月以降平成13年2月までの間(この間、寒さが厳しい時期が2度あったことになる。)、…療養に極めて不適切な環境を作出し、被相続人にこの環境の中での生活を強いていたのであって、このような行為は、客観的にみても虐待と評価するほかない。
…次に、相手方は、…被相続人本人からの不満や、E、Fらの再三の忠告にもかかわらず、…ビニールシートを使った生活を継続し、また、…被相続人が死んでも構わないなどという趣旨の、その人格を否定するような発言もしている。
これらの事情に照らせば、相手方には、自ら闘病中の被相続人に対し虐待をしていると認識していたのはもちろん、これを積極的に認容していたと評価するほかない。
そして、相手方の被相続人に対する上記虐待行為は、その程度自体も甚だしく、相手方に推定相続人からの廃除という不利益を科してもやむを得ないものと考えられる。
また、…被相続人は、平成13年2月以降死亡するに至るまで、相手方との離婚につき強い意思を有し続けていたといえるから、廃除を回避すべき特段の事情も見当たらない。
…以上検討したところによれば、相手方が被相続人に対し虐待を加えたもので、かつ、これが推定相続人の廃除の要件たる「虐待」に当たることは明らかである。

被相続人に対する重大な侮辱

重大な侮辱とは、被相続人の名誉や感情を著しく害することをいいます。

この点、推定相続人の虐待、侮辱、その他の著しい非行が相続的共同関係を破壊する程度に重大なものであるかの評価は、相続人のとった行動の背景の事情や被相続人の態度及び行為も斟酌考量した上でなされなければならないが、相続人(長男)の力づくの行動や侮辱と受け取られる言動は、嫁姑関係の不和に起因したものであって、その責任を相続人にのみ帰することは不当であり、これをもって廃除事由に当たるとすることはできないとした裁判例があります(東京高裁平成8年9月2日)。

<東京高裁平成8年9月2日>

推定相続人の廃除は、遺留分を有する推定相続人が被相続人に対して虐待及び侮辱並びにその他の著しい非行を行ったことが明らかであり、かつ、それらが、相続的共同関係を破壊する程度に重大であった場合に、推定相続人の相続権を奪う制度である。
右廃除は、被相続人の主観的、恣意的なもののみであってはならず、相続人の虐待、侮辱、その他の著しい非行が客観的に重大なものであるかどうかの評価が必要となる。
その評価は、相続人がそのような行動をとった背景の事情や被相続人の態度及び行為も斟酌考量したうえでなされなければならない。
…そこで、本件についてみるに、…抗告人と被相続人との不和は…嫁姑関係の不和に起因し、抗告人と被相続人がそれぞれの妻の肩をもったことで、抗告人夫婦と被相続人夫婦の紛争に拡大していったものである。
[嫁姑]は、頻繁に口論し、その結果お互いに相手に対する悪口、嫌がらせ、果ては暴力を振るうような関係に至っていたことが認められる。
抗告人と被相続人も紛争に関わる中で、口論は日常的なものとなり、相手に抱いた不信感や嫌悪感を底流として、双方が相手を必要以上に刺激するような関係になっていったものである。
そういう家庭状況にあって、抗告人が…や被相続人に対し、力づくの行動や侮辱と受け取られるような言動をとったとしても、それが口論の末のもので、感情的な対立のある日常生活の上で起こっていること、何の理由もなく一方的に行われたものではないことを考慮すると、その責任を抗告人にのみ帰することは不当であるというべきである。
そうすると、抗告人の前記言動の原因となった家庭内の紛争については、抗告人夫婦と被相続人夫婦の双方に責任があるというべきであり、被相続人にも相応の責任があるとみるのが相当である。
しかも、抗告人は被相続人から請われて同居し、同居に際しては改築費用の相当額を負担し、家業の農業も手伝ってきたこと、被相続人も昭和58年から死亡する[平成7年5月15日]まで抗告人との同居を継続したことなどの…事実を考慮すれば、抗告人と被相続人は家族としての協力関係を一応保っていたというべきで、相続的共同関係が破壊されていたとまではいえないから、抗告人と被相続人の感情的対立を過大に評価すべきでなく、抗告人の前記言動をもって、民法第892条所定の事由に当たるとすることはできない。

推定相続人の著しい非行

著しい非行とは、虐待や重大な侮辱には該当しないものの、それらに類似する程度の非行をいいます。

例えば、犯罪、服役、遺棄、被相続人の財産の浪費・無断処分、不貞行為、素行不良、長期の音信不通、行方不明などです。

この点、以下のような裁判例があります。

  • 相手方の行為は、客観的には、被相続人の多額の財産をギャンブルにつぎ込んでこれを減少させた行為と評価するしかなく、その結果、被相続人をして、自宅の売却までせざるをえない状況に追い込んだものであり、さらに、被相続人から会社の取締役を解任されたことを不満に思い、虚偽の金銭消費賃借契約や賃貸借契約を作出して民事紛争を惹き起こし、訴訟になった後も被相続人と敵対する不正な証言を行っているなど、相手方の一連の行動は、民法892条所定の「著しい非行」に該当することが明らかであるとして、推定相続人の廃除を認めた裁判例(大阪高裁平成15年3月27日)
  • 被相続人(母)の遺言執行者が遺言による相手方(長男)の推定相続人からの廃除を申し立てた事案において、被相続人が70歳を超えた高齢であり、介護が必要な状態であったにもかかわらず、被相続人の介護を妻に任せたまま出奔した上、父から相続した田畑を被相続人や親族らに知らせないまま売却し、妻との離婚後、被相続人や子らに自らの所在を明らかにせず、扶養料も全く支払わなかったものであるから、これら相手方の行為は、悪意の遺棄に該当するとともに相続的共同関係を破壊するに足りる「著しい非行」に該当するとされた裁判例(福島家裁平成19年10月31日)
  • 被相続人(父)の遺言執行者が、遺言による相手方(長男)の推定相続人からの廃除を申し立てた事案において、借金を重ね、被相続人に2000万円以上を返済させたり、相手方の債権者が被相続人宅に押しかけるといった事態により、被相続人を約20年間にわたり経済的、精神的に苦しめてきた相手方の行為は、客観的かつ社会通念に照らし、相手方の遺留分を否定することが正当であると判断される程度に重大なものであって、民法892条の「著しい非行」に該当するとした裁判例(神戸家裁伊丹支部平成20年10月17日)

<大阪高裁平成15年3月27日>

⑴ …相手方は、平成6年6月ころ以降、自己が管理する被相続人の多額の財産(○○マンションの賃料)を、「競馬ビジネス」などという事業に投資するとして、競馬のレースにつぎ込んだものである。
相手方が…に心酔していたことに照らせば、相手方は、…に吹き込まれるままに、主観的には「競馬ビジネス」なるものが本件会社の事業として成り立ち得ると誤信していたのかもしれないが、相手方の行為は、客観的には、被相続人の多額の財産をギャンブルにつぎ込んでこれを減少させた行為と評価するしかないものである。
…被相続人は、平成3年4月以降、自己の唯一の収入である○○マンションの賃料を、本件会社の事業資金として使用することはあらかじめ許容していたものであるが、その賃料を賭け事(競馬)に投じることを許容していたはずがなく、相手方の行為は、被相続人の財産を自己のために横領した行為といわなければならない。
⑵ ○○マンション及び○○ビルからの賃料収入は、これを普通に管理しておれば、公租公課を支払った後でも年間2600万円以上の黒字が残る…。
そして、相手方が支払うべき平成6年ないし8年分の固定資産税や所得税(…3年分合計3300万円余り)すら滞納してしまったということは、○○マンションの賃料から相手方が「競馬ビジネス」に投じるために横領した金額も租税滞納額を下回るものではありえないものというほかない。
しかも、…相手方は、「競馬ビジネス」にのめり込んだ結果、被相続人をして、自宅の売却までせざるをえない状況に追い込んだものである。
⑶ さらに、…相手方は、本件会社の取締役を解任されたことを不満に思い、…と共謀して虚偽の金銭消費貸借契約や虚偽の賃貸借契約を作出し、被相続人を困惑させよう、あるいは被相続人の財産を減少させようと意図して、民事紛争を惹き起こしたものであり、訴訟になった後も、被相続人と敵対する不正な証言を行っているのである。
被相続人がこれら訴訟への対応のため、高齢であるにもかかわらず、多大の心労を背負ったことは間違いがないところである。
⑷ 以上のような平成6年6月ころ以降の相手方の一連の行動は、民法892条所定の「著しい非行」に該当することが明らかであるから、本件遺言により、相手方を被相続人の推定相続人から廃除するのが相当である。

<福島家裁平成19年10月31日>

相手方は、被相続人の長男であり、妻子とともに被相続人と同居していたところ、被相続人が70歳を超えた高齢であり、身体障害者1級の認定を受けて介護が必要な状態であったにもかかわらず、被相続人の介護を事実上妻に任せたまま出奔し、妻と調停離婚した後にも、未成年の子ら3名や被相続人の扶養料を支払うことも全くなく、被相続人の夫から相続した田畑2588平方メートルを被相続人や親族らに知らせないまま売却し、それ以後も被相続人や子らに対して自ら所在を明らかにしたり扶養料を支払うことがなかったというのであるから、相手方のこれら行為は、悪意の遺棄に該当するとともに、相続的共同関係を破壊するに足りる著しい非行に該当するものと認められる。

<神戸家裁伊丹支部平成20年10月17日>

推定相続人の廃除は、相続的協同関係が破壊され、又は破壊される可能性がある場合に、そのことを理由に遺留分権を有する推定相続人の相続権を奪う制度であるから、民法892条所定の廃除事由は、客観的かつ社会通念に照らし、推定相続人の遺留分を否定することが正当であると判断される程度に重大なものでなければならないと解すべきである。
これを本件についてみるに、…相手方は、競馬、パチンコや車の購入、女性との交際費等で借金を重ね、被相続人に度々返済させるなどいわゆる尻ぬぐいを長年にわたってさせており、しかも被相続人が相手方から返済を受けられなかった出費の合計額は2000万円以上に上っており、被相続人死亡時の被相続人の財産1000万円相当に比べて相当過大であるだけでなく、被相続人が長年○○や○○株式会社に勤務し、ある程度の収入や蓄財が予想されるにもかかわらず、立替金の財源に不足し、娘…からも借金をしなければならなかったことも考慮すると、被相続人の経済的な負担は極めて大きかったものと認めることができる。
また、相手方の債権者らには、いわゆるヤミ金や相手方の友人がおり、相手方が殴られて帰宅したことや、関係者が被相続人の自宅を見張ったり押しかけたことがあり、近所にも聞こえるような大声で罵倒し警察を呼ぶ事態も生じたことなどがあるのであるから、被相続人の親としての心の平穏や住居の平穏を著しく害されたことは否定できない。
さらに、相手方は、被相続人からいわゆる「勘当」までされたにもかかわらず、再び借金を重ねて破産、免責の決定を受けたほか、破産、免責決定後も、改心したとまではいいがたく、被相続人にまで再び引越代の無心をしたりしている。
そうすると、相手方の行為は、相手方が成人に達するころから約20年間、被相続人を経済的、精神的に苦しめてきたものといわざるを得ず、被相続人の苦痛は被相続人の死亡まで続いており、被相続人が心情を吐露したとみられる本件手紙及び本件遺言書の各内容、並びにいわゆる「勘当」の存在及び葬式ヘの相手方出席に関する…指示などは、被相続人の怒りが相当激しいものであったことを示しているところ、相手方の行為による被相続人への経済的、精神的な苦痛の大きさやその継続に鑑みれば、被相続人の怒りも十分理解できるものであって、結局、相手方の行為は、客観的かつ社会通念に照らし、相手方と被相続人の相続的協同関係を破壊し、相手方の遺留分を否定することが正当であると判断される程度に重大なものであり、民法892条の「著しい非行」に該当するといわざるを得ない。

推定相続人の廃除の効果

推定相続人の廃除が認められると、被相続人を相続する資格がなくなります。

もっとも、廃除の効果は相対的なもので、被相続人との関係でのみ推定相続人の相続権がなくなります。

例えば、長男が父から廃除されたとしても、母の相続人にはなれます。

また、廃除された相続人の直系卑属は代襲相続できます(民法887条2項)。

なお、いったん廃除の意思表示がなされた場合でも、被相続人はいつでもその意思表示を取り消すことができます(民法894条2号)。