相続分の譲渡・放棄

相続人は、相続分を譲渡したり、相続分を放棄することができます。

相続分を譲渡・放棄すると、相続分が変動します。

相続分の譲渡

相続分の譲渡とは

相続分の譲渡とは、債務を含めた遺産全体に対する相続人の割合的な持分を譲渡することをいいます。

相続分の譲渡は、相続人に対しても相続人以外の第三者に対してもすることができます(民法905条1項)。

相続分の譲渡は、相続人が多数いる場合に、遺産分割の当事者を整理するときなどに利用されます。

相続分の譲渡をする際には、譲渡人と譲受人との間で「相続分譲渡証書」を作成して、相続分の譲渡があったことを明確にします。

譲渡人は、相続分譲渡証書に実印を押印して印鑑証明書を添付します。

相続分の譲渡の効果

譲渡人

相続分を譲渡した者は、相続分を失うため遺産分割には関与できなくなります。

<最高裁平成26年2月14日>

共同相続人のうち自己の相続分の全部を譲渡した者は、積極財産と消極財産とを包括した遺産全体に対する割合的な持分を全て失うことになり、遺産分割審判の手続等において遺産に属する財産につきその分割を求めることはできない…。

なお、債務については、債権者の同意がなければ譲渡の効力は生じず、債権者は譲渡人に対して法定相続分に応じた支払いを請求できます。

譲受人

相続分を譲渡された者は、譲渡人の遺産全体に対する割合的な持分をそのまま承継し、遺産分割に関与することになります。

<東京高裁昭和28年9月4日>

相続分の譲渡は、これによって共同相続人の一人として有する一切の権利義務が包括的に譲受人に移り、同時に、譲受人…は遺産の分割に関与することができるのみならず、必ず関与させられなければならない地位を得るのである。

<最高裁平成13年7月10日>

共同相続人間で相続分の譲渡がされたときは、積極財産と消極財産とを包括した遺産全体に対する譲渡人の割合的な持分が譲受人に移転し、譲受人は従前から有していた相続分と新たに取得した相続分とを合計した相続分を有する者として遺産分割に加わることとなり、分割が実行されれば、その結果に従って相続開始の時にさかのぼって被相続人からの直接的な権利移転が生ずることになる。
このように、相続分の譲受人たる共同相続人の遺産分割前における地位は、持分割合の数値が異なるだけで、相続によって取得した地位と本質的に異なるものではない。
そして、遺産分割がされるまでの間は、共同相続人がそれぞれの持分割合により相続財産を共有することになるところ、上記相続分の譲渡に伴って個々の相続財産についての共有持分の移転も生ずるものと解される。
相続分の譲渡により生ずるこのような法的な状態は、譲渡前に個々の不動産について相続の登記がされたか否かにより左右されるものではない。

相続分の放棄

相続分の放棄とは

相続分の放棄とは、相続人が一方的な意思表示により相続分を放棄することをいいます。

相続分の放棄は、相続放棄と異なり、相続人としての地位を失うわけではありません。

相続分の放棄は、相続人が多数いる場合に、遺産分割の当事者を整理するときなどに利用されます。

相続分の放棄をする際には、「相続分放棄書」を作成して、相続分の放棄があったことを明確にします。

相続分の放棄をする者は、相続分放棄書に実印を押印して印鑑証明書を添付します。

相続分の放棄の効果

相続分の放棄をした相続人

相続分を放棄した者は、相続分を失うため遺産分割には関与できなくなります。

相続分の放棄をしても、相続人としての地位は失わないので、債務については法定相続分の割合で負担します。

したがって、債権者は、相続分の放棄をした相続人に対しても、法定相続分に応じた支払いを請求できます。

他の相続人

相続分の放棄は、遺産に対する共有持分権を放棄(民法255条)する意思表示と考えられます。

したがって、相続分の放棄をした者の相続分を、他の相続人がその相続分に応じて取得することになります。

もっとも、相続分の放棄をした者が、初めから相続人にならなかった場合(相続放棄の場合)と同様の効果を希望する場合、他の相続人の取得額は相続放棄をした場合と同じ結果になります。

具体例

被相続人Aが死亡し、相続人が妻B・長男C・長女Dだった場合、法定相続分はBが1/2、C・Dが1/4です。

この場合、長女Dが相続放棄や相続分の放棄をした結果は次のとおりになります。

相続放棄

長女Dは、初めから相続人にならなかったことになります(民法939条)。

したがって、被相続人Aの相続人は妻Bと長男Cになり、相続分は妻Bが1/2、長男Cが1/2となります(民法900条)。

相続分の放棄

長女Dの相続分1/4を、妻B・長男Cが相続分の割合(B:C=2:1)に応じて取得します(民法900条)。

したがって、妻Bは1/4×2/3=1/6、長男Cは1/4×1/3=1/12ずつ取得します。

その結果、最終的な相続分は、妻Bが1/2+1/6=2/3、長男Cが1/4+1/12=1/3となります。

もっとも、長女Dが、初めから相続人にならなかった場合(相続放棄の場合)と同様の効果を希望する場合、妻B・長男Cの相続分は、長女Dが相続放棄をした場合と同じく、妻Bが1/2、長男Cが1/2となります。