共有関係を解消する方法

共有は、所有権が数人に共同して帰属している状態をいいます。

共有のうち、特に遺産分割前に遺産を共有している状態を遺産共有といいます。

通常の共有(遺産共有以外の共有)と遺産共有のどちらの意味の「共有」であるかによって、共有関係を解消する方法に違いがあります。

通常の共有の場合

「共有物分割」という手段により、共有関係を解消します(民法256条以下)。

共有物分割には、次の3つの方法があります。

それぞれの方法の詳細については、別のページで説明します。

  • 現物分割:共有物を共有持分の割合に応じて物理的に分ける方法
  • 換価分割:共有物を売却して、売却代金を共有持分の割合に応じて分ける方法
  • 価格賠償:共有者のひとりが共有物を取得し、他の共有者に代償金を支払う方法

共有物分割については、以下のような法改正がされています。

  • 「共有者間に協議が調わないとき」だけでなく、「協議をすることができないとき」にも裁判所に共有物の分割を請求できる(改正民法258条1項、最高裁昭和46年6月18日の明確化)
  • 共有物を現物で分割する方法に加え、共有者に債務を負担させて、他の共有者の持分の全部又は一部を取得する方法(賠償分割)を追加(改正民法258条2項2号、最高裁平成8年10月31日の明確化)
  • 共有物分割の裁判において、当事者に対して金銭の支払い、物の引渡し、登記義務の履行その他の給付を命じることが可能(改正後民法258条4項、家事事件手続法196条の給付命令を参考)

改正後の民法は令和3年4月28日から2年以内に施行されることになっていましたが(改正民法附則1条本文)、「民法等の一部を改正する法律の施行期日を定める政令」(令和3年12月14日閣議決定)により、令和5年4月1日に施行されることになりました。 。

遺産共有の場合

「遺産分割」という手段により、共有関係を解消します(最高裁昭和62年9月4日、民法906条以下)。

<最高裁昭和62年9月4日>

遺産相続により相続人の共有となった財産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家事審判法の定めるところに従い、家庭裁判所が審判によってこれを定めるべきものであり、通常裁判所が判決手続で判定すべきものではないと解するのが相当である。

遺産分割には、次の3つの方法があります。

  • 現物分割:遺産を相続分に応じて物理的に分ける方法
  • 代償分割:相続人のひとりが遺産を取得し、他の相続人に代償金(相続分を超える分の金額)を支払う方法
  • 換価分割:遺産を売却して、売却代金を相続分に応じて分ける方法
  • 共有分割:遺産を相続人が相続分に従って共有する方法

遺産分割の方法の詳細については、こちらのページで説明します。

通常の共有と遺産共有が併存する場合

通常の共有と遺産共有が併存する場合とは、Aが通常の共有持分を持ち、B・Cが遺産共有持分を持つような場合です。

このような共有関係を解消するには、まず、「共有物分割」によりAとB・Cとの共有関係を解消し、次に、「遺産分割」によりB・Cの共有関係を解消することになります(最高裁平成25年11月29日)。

<最高裁平成25年11月29日>

共有物について、遺産分割前の遺産共有の状態にある共有持分(以下「遺産共有持分」といい、これを有する者を「遺産共有持分権者」という。)と他の共有持分とが併存する場合、共有者(遺産共有持分権者を含む。)が遺産共有持分と他の共有持分との間の共有関係の解消を求める方法として裁判上採るべき手続は民法258条に基づく共有物分割訴訟であり、共有物分割の判決によって遺産共有持分権者に分与された財産は遺産分割の対象となり、この財産の共有関係の解消については同法906条に基づく遺産分割によるべきものと解するのが相当である…。

そうすると、遺産共有持分と他の共有持分とが併存する共有物について、遺産共有持分を他の共有持分を有する者に取得させ、その者に遺産共有持分の価格を賠償させる方法による分割の判決がされた場合には、遺産共有持分権者に支払われる賠償金は、遺産分割によりその帰属が確定されるべきものであるから、賠償金の支払を受けた遺産共有持分権者は、これをその時点で確定的に取得するものではなく、遺産分割がされるまでの間これを保管する義務を負うというべきである。

そして、民法258条に基づく共有物分割訴訟は、その本質において非訟事件であって、法は、裁判所の適切な裁量権の行使により、共有者間の公平を保ちつつ、当該共有物の性質や共有状態の実情に適合した妥当な分割が実現されることを期したものと考えられることに照らすと、裁判所は、遺産共有持分を他の共有持分を有する者に取得させ、その者に遺産共有持分の価格を賠償させてその賠償金を遺産分割の対象とする価格賠償の方法による分割の判決をする場合には、その判決において、各遺産共有持分権者において遺産分割がされるまで保管すべき賠償金の範囲を定めた上で、遺産共有持分を取得する者に対し、各遺産共有持分権者にその保管すべき範囲に応じた額の賠償金を支払うことを命ずることができるものと解するのが相当である。

通常の共有と遺産共有が併存する場合の共有物分割については、以下のような法改正がされています。

  1. 共有物の全部又はその持分が相続財産に属する場合において、共同相続人間で共有物の全部又はその持分について遺産分割をするときは、共有物分割訴訟による分割はできない(改正民法258条の2第1項、最高裁昭和62年9月4日・平成25年11月29日の明確化)
  2. 相続開始から10年を経過した場合、遺産共有持分を共有物分割訴訟により分割できる(改正民法258条の2第2項本文)。

もっとも、相続開始から10年を経過した場合でも、遺産分割の請求があり、かつ、相続人が異議を述べたときは、遺産共有持分を共有物分割訴訟により分割できません(改正民法258条の2第2項但書)。

そして、相続人が異議を述べる期限は、共有物分割訴訟が係属する裁判所から通知を受けた日(訴状の送達を受けた日と考えられます。)から2か月以内とされています(改正民法258条の2第3項)。

改正後の民法は令和3年4月28日から2年以内に施行されます(改正民法附則1条本文)。