被相続人の死亡後、相続人が貸金庫を開扉したり、内容物を取り出したりできるかについて説明します。
貸金庫契約の法的性質
貸金庫契約は、銀行の金庫室内の一部を貴重品などの保管場所として借りる賃貸借契約です(最高裁平成11年11月29日)。
そして、被相続人の死亡により、貸金庫契約も各相続人に相続され、貸金庫契約の借主としての地位は各相続人に不可分に帰属し、貸金庫を利用する権利は各相続人が準共有すると考えられます。
準共有とは、所有権以外の財産を共有することをいいます(民法264条本文)。
貸金庫の開扉
貸金庫を開扉することは、保存行為(民法252条但書)だと考えられます。
したがって、各相続人は、他の相続人の同意がなくても単独で貸金庫を開扉できることになります。
また、相続人は、相続の承認又は放棄をする前に、相続財産の調査をすることもできます(民法915条2項)。
したがって、各相続人は、この調査の一環としても、他の相続人の同意がなくても単独で貸金庫を開扉できると考えられます。
貸金庫内の内容物の持ち出し
貸金庫の内容物を持ち出すことは、保存行為や相続財産調査の一環であるとはいえません。
したがって、各相続人は、他の相続人の同意がなければ、貸金庫の内容物を持ち出すことはできないと考えられます。
また、貸金庫の内容物が現金である場合、各相続人は、法定相続分の限度でも現金を持ち出すことはできません。
なぜなら、現金は遺産分割の対象となり、相続人は、遺産分割までの間、相続開始時にあった現金を保管している他の相続人に対し、自己の相続分に相当する金銭の支払いを請求することはできないからです(最高裁平成4年4月10日)。
銀行の対応
銀行が、相続人の一人から貸金庫の開扉などを求められた場合、他の相続人から内容物を持ち去られたなどといったクレームを受けるリスクを考慮して、原則としてすべての相続人の立会いを求めたり、相続人全員の同意を要求するのが通常です。
そのため、相続人全員の立会いや同意が得られない場合、貸金庫の会費などは事実上困難となります。
このような場合、銀行のリスクを減らすため、以下のような対応が考えられます。
事実実験公正証書
事実実験公正証書とは、公証人が五感の作用により直接体験(事実実験)した事実に基づいて作成した公正証書をいいます。
事実実験の結果を記載した事実実験公正証書は、証拠を保全する機能があり、権利に関係のある多種多様な事実を対象とします。
事実実験公正証書は、公証人によって作成された公文書であることから、高度の証明力を有します。
そのため、公証人が、相続人から嘱託を受け、被相続人名義の銀行の貸金庫を開披し、その内容物を点検・確認する事実実験公正証書を作成することで、銀行のリスクを減らすことができると考えられます。
もっとも、あくまで銀行が貸金庫の開扉に応じることが前提となります。
保全処分
遺産分割調停・審判を申立てた場合、財産の管理者を選任する保全処分により、財産管理者に貸金庫の開扉などを委ねることも考えられます(家事事件手続法200条1項)。