祭祀承継者の資格

祭祀承継者の資格に制限はなく、相続人でなくても、親族関係がなくても、氏が異なっても、祭祀承継者になることができます。

祭祀承継者の地位

祭祀財産は相続財産ではないことから、相続放棄した相続人が祭祀承継者になることもできます。

祭祀承継には、相続と異なり、承認や放棄の制度がありません。

したがって、祭祀承継の放棄や辞退をすることはできません。

しかし、 祭祀を承継したからといって、祭祀承継者が祭祀を主宰する義務を負うわけではありません。

そのため、祭祀承継者は、祭祀財産を処分することもできます(広島高裁昭和26年10月31日)。

親族以外が祭祀承継者になれるか

祭祀承継者の資格については、民法には定められておらず、祭祀承継者の資格に制約はありません。

したがって、相続人か否か、親族関係の有無、氏の異同は問わないと考えられます。

この点、離婚によって氏を改めた者が祭祀を承継した後に離婚をした場合、祭祀を承継する者を定める必要があるとされています(民法769条・771条)。

もっとも、民法769条は、祭祀承継者が被相続人の相続人や親族で氏が同じであることが多いと予想したにすぎないと考えられます(大阪高裁昭和24年10月29日)。

なお、墓地によっては、墓地の使用権を承継できる者を親族に限定している場合もあることから、予め墓地の管理者に確認をすることが望ましいです。

相続人でない者が祭祀承継者とされた裁判例には、次のようなものがあります。

  • 親族でなく氏も異なる共同墓地の管理者を祭祀承継者に指定した裁判例(福岡家裁柳川支部昭和48年10月11日)
  • 祭具・墳墓・墓地を事実上管理している被相続人の内縁の夫の孫を祭祀承継者に指定した裁判例(高松家裁平成4年7月15日)

宗教・宗派の異なる者が祭祀承継者になれるか

前述のように、祭祀承継者の資格に制約はないと考えられます。

したがって、墓地がある寺の宗派と異なる宗派・宗教を信仰している者を祭祀承継者として指定することもできます。

もっとも、墓地によっては、墓地の使用権を承継するのに檀家契約の締結が必要になる場合もあることから、予め墓地の管理者に確認をすることが望ましいです。

また、遺骨の埋蔵の際の典礼について、寺と祭祀承継者のいずれが希望する方式に基づいて行うのかが問題となる場合もあります。

この点、以下のような裁判例があります。

裁判例については、事案や判断理由の重要な部分を長めに引用しているため、必要に応じて参照してください。

  • 寺院墓地管理者は、従来から寺院墓地に先祖の墳墓を所有する者からの埋葬蔵の依頼に対して、原則として改宗離檀したことを理由に拒むことができないとした裁判例(津地裁昭和38年6月21日)
  • 墓地使用権の設定にあたり寺院の定める方式に従って墓地を使用する旨の合意があっても、その拘束力は墓地使用権を承継取得した者には及ばず、無典礼の方式による遺骨の埋蔵を拒絶することはできないとした裁判例(宇都宮地裁平成24年2月15日)

▶津地裁昭和38年6月21日

従来から寺院墓地に先祖の墳墓を所有するものからの埋葬蔵の依頼に対しては寺院墓地管理者は、その者が改宗離檀したことを理由としては原則としてこれを拒むことができない

…墓地使用権は墳墓が有する容易に他に移動できないという性質(官庁の許可を得た墓地内にのみ設定されねばならない。)すなわち固定性の要求からして、また我が国においては墳墓が先祖代々の墳墓と観念されていること…また国民の宗教生活上墳墓は尊厳性を持つべきことを要請されていること…などの諸点からして墳墓は必然的に固定的且つ永久的性質を有すべきものとして観念されているのである。
さればこのような固定性、永久性を有すべき墳墓を所有することにより墳墓地を使用することを内容とする墓地使用権も、たとえその設定契約が前記のように檀家加入契約という契約に由来するとしても、右墳墓と同様に永久性を持つべきものと考える。
そして当初の設定契約もかかる性質を有するものとして設定されておるものと言えよう。
これを象徴する言葉として永代借地権なる語が存するが、墓地使用権が法上いかなる権利に属するかどうかは別として墓地使用権の本来的に有する性質を現わしていると言えよう。
寺院墓地はかくしていわば永代に亘って墳墓地の使用を許さなければならないという負担を設定契約の当初から背負っているのである。
従って当該墳墓の祭祀を司る者が改宗離檀したからと言って、その者及びその親族の墓地使用権はこれによって当然に消滅するということはできない

▶宇都宮地裁平成24年2月15日

…本件墓地は寺院墓地であり、その墓のほとんどは被告の宗派である…派の典礼に従い使用されてきたことが認められ、原告の妻の祖先である…が被告との間で本件墓地使用権の設定を合意するに当たっても、被告の定める典礼の方式に従い墓地を使用するとの黙示の合意が成立したものと認めるのが相当である。
しかしながら、本件墓地使用権を承継した者が異なる宗派となった場合にまで上記の黙示の合意の拘束力が及ぶかどうかについて、これを定めた墓地使用規則はなく、また、その場合にも被告の典礼の方式に従うとの慣行があったことを認めることもできない。
かえって、乙山住職が被告の住職となる前は、いくつかの異宗派の者が、その宗派の定める典礼の方式により本件墓地内に墓石を設置し、遺骨を埋蔵していても、被告が寺として異議を述べた事情は認められない。
そして、原告も、…派とは異なる題目の墓石を設置し、法名の授与を受けずに遺骨を埋蔵していたものである。
以上によれば、上記の黙示の合意の解釈として、本件墓地使用権を承継した者が異なる宗派となった場合に、その者に対し被告の属する…派の典礼の方式に従うことを求める効力があるとするのは困難であり、その者が…派とは異なる宗派の典礼の方式を行うことを被告が拒絶できるにすぎないと解するのが相当である。
そうであるとすれば、原告が被告とは異なる宗派であるとしても、それ自体が直ちに被告が原告による遺骨の埋蔵を拒絶する正当の理由となるものではないことはもちろん、原告が、被告の典礼の方式に従わず、又は被告の典礼の方式に従うが墓地管理料以外の典礼に伴う布施等の金員の出捐を拒否することが、上記黙示の合意に違反するものではなく、墓地使用権の行使として無典礼の方式による遺骨の埋蔵を求めることも、上記黙示の合意に抵触するものではない