祭祀承継者はひとりであるのが原則ですが、祭祀財産を分けて承継させることや、共同で承継させることができる場合もあります。
原則
祭祀財産を通常の財産と同一に扱うことは好ましくないと考えられることから、祭祀主宰者は、本来ひとりであるべきと考えられています(大阪高裁昭和59年10月15日)。
▶大阪高裁昭和59年10月15日
祭祀主宰者は民法897条の趣旨や文言からいっても、本来、一人であるべきものであるし、祭祀財産は祭祀を行うための要具であるから、それが著しく遠隔地にあるとか、歴史的価値が高く祭具本来の意味を失った場合等の特段の事情がある場合を除き、原則として先祖の祭祀を主宰するのにふさわしい者がその権利を単独で承継すべきものである。
例外
もっとも、次のように特別な事情がある場合、祭祀財産を別々に承継させたり、共同で承継させることができるとした裁判例もあります。
裁判例については、事案や判断理由の重要な部分を長めに引用しているため、必要に応じて参照してください。
祭祀財産を別々に承継させた裁判例
- 墳墓を養女に承継させ、系譜・祭具を親族に承継させた裁判例(東京家裁昭和42年10月12日)
- 2か所の墓地使用権を前妻側の相続人と後妻側の相続人に別々に承継させた裁判例(東京家裁昭和49年2月26日)
- 後妻を祭祀承継者としながら、墳墓・位牌などの承継者を先妻の子とした裁判例(東京高裁平成6年8月19日)
- 三男を祭祀承継者としながら、仏壇などの承継者を長男とした裁判例(奈良家裁平成13年6月14日)
▶東京家裁昭和42年10月12日
被相続人…の唯一の相続人であり、父母…が本件墳墓地に埋葬されておるところから、今後本件墳墓地を所有管理していく意向をもっている申立人と、昭和30年1月9日以来、昭和41年6月頃申立人に引渡すまで本件墳墓地を管理していた参加人…以外に承継者として適当なものは見受けられず、しかも、…本件墳墓地に隣接する申立人所有の約8畝の畑地を通らずには、本件墳墓地に行けないことや、本件墳墓地を管理維持するためには相当の費用を要し、従前参加人…は、右畑地を無償耕作できたので、本件墳墓地を管理維持しえたのであるが、申立人がこれを所有している以上、同参加人が本件墳墓地を…自らの費用で管理維持することもできないところから、既に管理を断念してこれを申立人に引渡して返還したものであって、これらの点その他一切の事情を考慮すると、本件墳墓および墳墓地に関する被相続人…の所有権承継者としては、申立人を指定するのが妥当であると解せられる。
しかしながら、…参加人…は長い期間本件墳墓地のほか、…系譜および祭具(仏壇および位牌)を管理しており、今後引続いてその管理をすることを切望しており、しかも申立人も、参加人…が本件墳墓地を引渡して返還してくれた以上、…系譜および祭具まで返還することを要求せずこれを同参加人が所有権の承継者となって管理を続けることには異議はないことを表明しているのであるから、系譜および祭具の所有権の承継者としては参加人…を指定することが相当である。
ただかくの加く系譜、祭具および墳墓の所有権の承継者を2人に分けて指定することは許されないのではないかとの疑問が存する。
しかし当裁判所は、一般に系譜、祭具および墳墓の所有権の承継者は一人に限られるべきであろうが、本件の如き特別の事情があれば、祭祀財産を分けて、別箇にその所有権の承継者を指定することも差し支えないと解する。
▶東京家裁昭和49年2月26日
被相続人…は従前から別紙目録⑴及び⑵の墓地使用権を有して居ったもので、同人の死亡後前妻側の相続人と、後妻側の相続人が二派に別れて、右墓地の承継をめぐって対立した形になっているが、同目録⑵の墓地には前妻…、前妻との九女…の分骨その他の親族が埋葬してあって、従前前妻の子である申立人…[A]において管理し、その費用を支弁したこともあったこと、同目録⑴の墓地については右…[九女]の遺骨の一部埋葬もあるが、後妻側の相続人において特にその承継について関心が深く、申立人…[B]は後妻側の養子であること、前妻側の相続人及び後妻側の相続人は概ね目録⑵の墓地については前者の側の者が、目録⑴の墓地については後者の側の者が承継すれば満足すべき意向を示しているものと認められる。
そこで諸般の事情を綜合すると記録上前妻側の相続人の代表とも目しうべき申立人…[A]を右目録⑵の墓地につき、申立人…[B]を右目録⑴の墓地につき権利を承継すべき者と定めるのが相当である。
▶東京高裁平成6年8月19日
[原審は、祭祀用財産のうち、紛争の中心をなしていた多摩霊園の墓地や祖先の位牌などについては相手方Bを、奈良県下の墓地、先妻の戒名の列記されている位牌については、抗告人をそれぞれ承継者と指定していた。]
相手方Bは、結婚以来40年以上にわたり、被相続人と生活をともにして同人を支えてきたものであること、同人は相手方Bの所有名義とした東京都練馬区東大泉の土地に同相手方と27年間にわたり居住し、また、仏壇、仏具、位碑は昭和48年に新築した同相手方の所有名義の被相続人の自宅に置かれていること、先妻の子である相手方Cも、相手方Bが祭祀承継者となることを望んでいること、同相手方は被相続人も葬儀の喪主を務めるとともに、四十九日の法要も相手方Bが主宰したこと等の前記認定の同相手方と被相続人との関係、同相手方の祭祀主宰の意思や能力あるいは関係者の意向等の諸事情に照らすと、相手方Bが、相続人の中では被相続人と共同生活を最も親密に送った者として祭祀用財産の承継者に相応しいと考えるのが相当であり、抗告人が相手方Bをして祭祀用財産の承継者とすることが相当でないと主張する事情は、いずれもこれを首肯することができないから、抗告人の右主張も採用することができない。
▶奈良家裁平成13年6月14日
⑴ 被相続人は、退職後約30年余のうち、最後の1年間を除き、相手方…と同居生活を送っていることが明らかであるから、被相続人との生活関係は相手方…の方が申立人より深く緊密であったと考えることができる。
被相続人が、最後に申立人の元で死亡していることや、申立人が長男であることから、被相続人が申立人との同居を望んでいたことは想像に難くないが、他方、約30年間の同居中、被相続人から申立人との同居を申し出た形跡がないことからすると…、申立人は相手方…との同居生活をより望んでいたのではないかと考えられる。
⑵ また、被相続人の扶養に関しても、申立人は最後の1年間は引き取ったものの、それまで相手方…からの申し出をことごとく拒否していたのであるから、申立人が被相続人の扶養について積極的であったとは考えにくい。
これに対し、相手方…は、妻と被相続人との嫁姑関係に気を配りながら、同居中ずっと被相続人の面倒をみてきたのであるから、被相続人の扶養について積極的であったと考えることができる。
確かに、同相手方も何度か被相続人の扶養を申立人に申し出ることがあったが、それまでの生活実態からすると、長男である申立人に比べ自分の負担が大きいと考えたとしても無理のないことであるから、これを非難するのはあたらない。
したがって、被相続人の扶養についても、もっぱら同相手方が積極的で、現実にそのほとんどを同相手方が負担してきたと認めるのが相当である。
⑶ 申立人と相手方…は被相続人の扶養をめぐり激しく対立してきたが、被相続人は、子供たちと上手にバランスを取りながらつきあっており、子供たちも、終生、被相続人を敬慕し、親愛感を抱いていたため、親子関係自体には問題がなかった。
したがって、被相続人は、子供たちの誰もが、それぞれ自由に自分の供養、墓参りをしてくれることを望んでいたはずである。
しかるに、申立人は、被相続人の墳墓について合葬を主張し、申立人自身そこに合葬されることを望んでいるが、相手方らは申立人が合葬された墳墓を参拝する意思がないことを明確にしているから、仮に、申立人が祭祀財産の承継者となると、相手方らの参拝が途絶える事態が予想される。
これに対し、相手方…は、被相続人の墳墓での合葬は望まず自身の墳墓は別に求めるとして、被相続人の墳墓は「父母の墓」とすることを主張しているから、仮に、同相手方が墳墓を承継するとしても、申立人の参拝は妨げられない。
⑷ ⑴ないし⑶の事情によれば、被相続人の祭祀財産承継者は相手方…と指定するのが相当である。
しかしながら、被相続人の仏壇(位牌を含む。)については、現在申立人がこれを管理しているところ、申立人と相手方…の対立状況からみて、仮に、この承継者を同相手方とすると、その引渡をめぐって新たな紛争が生じることがほとんど必至であると考えられること、仏壇の購入代金を被相続人と申立人のいずれが負担したかについて争いがあるが、少なくても相手方…がこれを負担した事実はないこと等の事情が認められる。
これによると、仏壇(位牌を含む。)の承継者については申立人と指定するのが相当である。
…以上のとおり、本件では被相続人の墳墓については相手方…を、祭具(仏壇、位牌)については申立人を、それぞれの承継者と指定するのが相当である。
本来、祭祀財産の承継者の指定は1人に限るのが望ましいが、本件のように、当事者間の対立が激しい事案では、各別に指定することもやむを得ない。
祭祀財産を共同で承継させた裁判例
- 一つの家の墓として代々祭祀を行ってきた墓地の共同承継者として2人を指定した裁判例 (仙台家裁昭和54年12月25日)
▶仙台家裁昭和54年12月25日
本件墓地…は、…A1がB1と共同して所有し、申立人の亡夫…の祖先でA家から分れ出た人々が…B家の祖先と共に埋葬されている墓地である…。
本件墓地の承継者として誰が適当かを考えるに、…申立人とA1の身分関係は、…申立人の亡夫の曽祖父…、その父…と縁あるA家一族の祖先であり、本件墓地には同人、その子…らが前示B家の祖先と共に埋葬され、A家では代々本件墓地をA、B両家の墓として祭紀を行い管理してきたこと、申立人は、…婚姻した当初より…墓参、管理し、…A家の中心となって墓参、管理を続けていること、…子孫…で本件墓地へ墓参するものは申立人のほかにはいないことが認められ、以上の事実から考えると、本件基地は、B家の祭祀承継者と共同して申立人において承継するのが相当である。
もっとも、墳墓の所有権の承継者を共同して指定することは許されないのではないかとの疑問もあるが、当裁判所は、一般に系譜、祭具および墳墓の所有権の承継者は一人に限られるべきであろうが、本件の如き特別の事情のある場合にはこれを共同して承継するものとして指定することは差し支えないと解する。