遺言の内容を実現するために必要な行為や手続きを行うことを遺言執行といいます。
遺言執行者とは
遺言は、遺言者の死亡の時から効力を生じます(民法985条1項)。
遺言に記載された事項には、以下の2つの性質のものがあります。
- 何らの行為や手続をしなくても当然にその内容が実現される性質のもの
- 内容を実現するために必要な行為や手続をすることで初めて遺言の内容が実現される性質のもの
遺言の内容を実現するために必要な行為や手続をすることを遺言執行といい、遺言執行する者を遺言執行者といいます。
認知(民法781条2項)や推定相続人の廃除(民法893条)など、遺言執行者でなければ執行できない遺言事項が含まれている遺言については、遺言執行者の選任が必要です。
これに対し、未成年後見人の指定(民法839条1項)など、遺言の内容を実現するために何らの行為を必要としない遺言事項に限られている遺言については、遺言執行者の選任は必要ありません 。
遺言執行者の指定・選任
未成年者と破産者は、遺言執行者にはなれませんが(民法1009条)、それ以外に資格に制限はありません。
法人も遺言執行者になれます。
遺言執行者の人数も制限はなく、一人でも数人でも構いません(民法1006条1項)。
遺言執行者の選定には、 遺言による選任と家庭裁判所による選任の2つの方法があります。
遺言による指定
遺言者は、遺言で、一人又は数人の遺言執行者を指定できます(民法1006条1項)。
生前の合意など遺言以外の方法で遺言執行者を指定することはできません 。
なお、遺言者は、遺言で、遺言執行者の指定を三第者に委託することもできます(民法1006条1項)。
家庭裁判所による選任
遺言執行者がいない場合やなくなった場合、家庭裁判所は、利害関係人の請求によって遺言執行者を選任できます(民法1010条) 。
遺言執行者の選任の申立てにあたり、遺言執行者の候補者を推薦することもできますが、家庭裁判所はその推薦に拘束されず、候補者の意見を聴き、候補者が適任であるか否かを検討することが一般的な運用です。
遺言執行者の権利・義務
遺言執行者には、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利・義務があります(民法1012条1項)。
そして、遺言執行者がその権限内において、遺言執行者であることを示してした行為は、相続人に対して直接にその効力を生じます(民法1015条)。
任務の開始・通知義務
就任を承諾した場合、遺言執行者は、直ちに任務を開始しなければなりません(民法1007条1項)。
そして、任務を開始したときは、遅滞なく、遺言の内容を相続人に通知しなければなりません(民法1007条2項)。
財産目録の作成・交付義務
遣言執行者は、遅滞なく、相続財産の目録を作成して相続人に交付しなければなりません(民法 1011条1項)。
善良な管理者の注意義務
遺言執行者は、遺言の執行に当たって、善良な管理者の注意をもって、その任務に当たらなくてはなりません(民法1012条3項・644条)。
報告義務
遺言執行者は、相続人から要求があった場合、いつでも遺言執行の状況等について報告しなければなりません(民法1012条3項・645条)。
引渡義務
遺言執行者は、遺言執行の任務遂行として相続人のために関係者から受領した金銭その他の物や収受した果実、相続人のために自己の名をもって取得した権利を、相続人に引き渡したり移転しなければなりません(民法1012条3項・646条)。
遺言執行者の復任権
遺言執行者は、全ての任務を自ら行わなければならないわけではなく、遺言者が遺言によって反対の意思を表示した場合を除き、自己の責任でその任務を第三者に行わせることもできます(民法1016条1項)。
例えば、相続財産に関する訴訟を弁護士に委任したり、登記申請を司法書士に委任するなど、専門家のサポートを受けることもできます。
遺言執行者は、第三者の行為についても、遺言執行者としての責任を負うことになりますが、第三者に任務を行わせることについてやむを得ない事由があるときは、相続人に対してその選任・監督についての責任のみを負います(民法1016条2項)。
相続人による妨害行為の禁止
遺言執行者がある合、相続人は、相続財産の処分その他の遺言の執行を妨げる行為をすることはできません(民法1013条1項)。
「遺言執行者がある場合」とは、遺言により遺言執行者が指定されている場合(民法1006条1項)又は家庭裁判所が遺言執行者を選任した場合(民法1010条) をいいますが、遺言執行者として指定された者が就職を承諾する前も含みます(最高裁昭和62年4月23日)。
もっとも、相続人の債権者(相続債権者を含む)が、相続財産についてその権利を行使することは妨げられません(民法1013条3項)。
遺言執行者がある場合、相続人による妨害行為は無効となります(民法1013条2項本文)。
もっとも、妨害行為の無効は善意の第三者には対抗できません(民法 1013条2項但書)。
「善意」とは、遺言執行者がおり、その財産の管理処分権が遺言執行者にあることを知らなかったこと」を意味し、無過失であることまでは必要ないと考えられます。