遺言執行の費用

遺言執行の費用とは

遺言の執行に関する費用には、以下のようなものがあります。

  • 遺言書の検認(1004条)に要する費用
  • 任務開始についての相続人への通知(民法1007条2項) に要する費用
  • 相続財産の目録調製・交付(民法1011条) に要する費用
  • 相続財産管理(民法1012条) に要する費用
  • 遺言執行に関連して行った訴訟に要する費用
  • 遺言執行者の報酬(民法1018条)

その他に、不動産の登記名義変更のための費用、葬儀費用が遺言の執行に関する費用となるかが問題となります。

不動産の登記名義変更に関する費用

不動産に関する権利の移転が遣言の目的である場合、不動産の登記名義変更のための費用がかかります。

不動産に関する権利の移転が特定遺贈の目的である場合、登録免許税などの費用は、遺言執行に関する費用になると考えられます。

また、改正法施行日である令和元年 7月1日以降にされた特定財産承継遺言の執行においては、遺言執行者は、原則として相続人のために対抗要件を具備するために必要な行為ができるとされており(民法1014条2項)、単独で登記申請もできます。

そのため、不動産の登記名義変更に関する費用は、遺言執行に関する費用に含まれると考えられます。

これに対し、改正法施行日である令和元年7月1日より前にされた「相続させる遺言」の執行においては、遺言執行者は登記申請をする権利も義務もないとされていました(最高裁平成11年12月16日) 。

そのため、不動産の登記名義変更に関する費用は、相続人が自ら負担すべき費用であり、遺言執行に関する費用に含まれないと考えられます。

葬儀費用

特定の財産を承継する相続人や受遺者に葬儀を依頼する遺言は、葬儀を行うことを負担とする負担付の特定財産承継遺言や負担付遺贈と考えられます。

そのため、葬儀費用は相続人や受遺者が負担すべきであって、遺言執行に関する費用には含まれないと考えられます。

この点、葬儀、法要に関する費用の支出について、遺言執行者の権限内の行為と認めることはできないとした裁判例があります(東京地裁平成22年1月26日)。

▶東京地裁平成22年1月26日

遺言執行者の権限は、遺言の執行に関する事項であり、本件遺言においても、「遺言執行者は、相続人の同意を要することなく、不動産の名義変更手続、預貯金債権の名義変更、払戻し、解約の権限を有するほか、本遺言執行に関する全ての権限を有するものである。」と定められている。そして、遺言の執行に関する事項としては、遺言の対象不動産の所有権移転登記手続が含まれるほか、本件遺言のように、すべての財産を遺贈するという包括遺贈については、被相続人の債務の弁済もこれに含まれると解するのが相当である。
これに対し、相続税は、相続人ないし受遺者が相続財産について法定の方法により算出された相続税の総額を自己が取得した割合に応じて負担するものであって、その申告は、相続人又は受遺者固有の義務であるから、遺言執行者が相続人ないし受遺者から委任を受けた場合や事後的に追認された場合を除いて、遺言執行者が行うべき職務には当たらないと解するのが相当である。
…葬儀、法要に関する費用は、相続開始後に生じたものであるから、Aの債務には当たらず、本件遺言とも関係がないから、その支出について遺言執行者の権限内の行為と認めることはできない。

遺言執行の費用の負担

遺言の執行に関する費用は、相続財産の負担となります(民法1021本文)。

相続財産の負担になるとは、次のような意味です。

・相続財産から遺言の執行に要する費用を控除すること

・遺言執行に関する費用は相続債務ではなく、遺言の執行に要する費用は相続人がその固有財産をもって支弁する必要がないこと

したがって、遺産分割の際、遺言の執行に要する費用を控除した相続財産が遺産分割の対象となります。

また、遺言執行者が立替えて支払った遺言の執行に関する費用について、遺言執行者が支出した遺言執行費用に関して相続人に償還を求めることのできる額は、全相続財産のうち当該相続人が取得する相続財産の割合に比例配分した額であり、かつ当該相続人が取得した相続財産の額を超えない部分に限られるとした裁判例があります(東京地裁昭和59年9月7日)。

▶東京地裁昭和59年9月7日

民法1012条によれは、「遺言の執行に関する費用は、相続財産の負担とする。」と規定されているが、右規定の趣旨は、遺言執行者は遺言執行に関する費用を相続財産の中からこれを支弁することができるとともに、相続財産の額を超える費用を相続人に請求することはできないことを定めたものと解するのが相当である。
そして、遺言執行者が、その執行につき必要な費用を立て替えて支払ったときには、民法1012条による同法650条1項の準用により、相続人に対して右費用の償還を請求することができるが、その場合各相続人に対して請求し得る額は、右費用を、全相続財産のうち当該相続人が取得する相続財産の割合に比例按分した額であり、かつ、当該相続人が取得した相続財産の額を超えない部分に限ると解するのが公平の観念にも合致し、かつ、同法1021条の趣旨にも合致するものというべきである。

遺留分との関係

遺言の執行に関する費用によって、遺留分を減じることはできません(民法1012条但書)。

遺留分を減じることはできないとは、遺留分権利者が遺留分侵害額請求をする場合において、相続人として遺言執行費用の支払義務を負担する遺留分権利者が、遺留分侵害額請求により得た金額の中から遺言執行費用の支出をする必要はない、という意味です。

これによって相続財産では負担できない遺言の執行費用がある場合、受遺者が負担すべきであると考えられています。