成年後見制度

成年後見制度とは、認知症、知的障害、精神障害などによって判断能力が十分ではない方を保護するための制度です。

相続が発生した際、多額の使途不明金が問題となるなど、被相続人の生前の財産管理の状況が問題となることがあります。

判断能力が不十分な方を保護するとともに、適切な財産管理を行って相続時の紛争を予防するためにも、成年後見制度の利用が重要となります。

成年後見制度には、法定後見制度と任意後見制度があります。

以下、それぞれについて説明します。

条文の番号は、特に断りのない限り民法のものです。

法定後見制度

法定後見制度には、保護される方の能力に応じて以下の種類があります。

  • 後見    判断能力が欠けているのが通常の状態の方
  • 保佐    判断能力が著しく不十分な方
  • 補助    判断能力が不十分な方   

後見

認知症、知的障害、精神障害などによって、判断する能力が欠けているのが通常の状態の方が対象となります(7条)。

家庭裁判所が「後見開始の審判」をして、本人を援助する成年後見人を選任します(8条)。

成年後見人には、契約などに関する代理権(859条)・取消権(9条)があります。

そのため、成年後見人は、本人に代わって契約を結んだり、本人がした契約を取り消したりすることができます。

保佐

認知症、知的障害、精神障害などによって、判断する能力が著しく不十分な方が対象となります(11条)。

家庭裁判所が「保佐開始の審判」をして、本人を援助する保佐人を選任します(12条)。

保佐人には、次の行為に関する同意権(13条1項本文)・取消権(13条4項)があります。

  1. 元本を領収し、又は利用すること
  2. 借財又は保証をすること
  3. 不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為をすること
  4. 訴訟行為をすること
  5. 贈与、和解などをすること
  6. 相続の承認・放棄又は遺産の分割をすること
  7. 贈与の申込みを拒絶・遺贈を放棄・負担付贈与の申込みを承諾・負担付遺贈を承認すること
  8. 新築、改築、増築又は大修繕をすること
  9. 一定の期間(602条)を超える賃貸借をすること
  10. 1~9の行為を制限行為能力者の法定代理人としてすること

また、特定の行為(上の1~10の行為に限りません。)に関する代理権を保佐人に付与することもできます(876条の4)。

保佐人に代理権を付与する審判をする場合、本人の同意が必要です(867条の4第2項)。

補助

認知症、知的障害、精神障害などによって、判断する能力が不十分な方が対象となります(15条1項)。

家庭裁判所が「補助開始の審判」をして、本人を援助する補助人を選任します(16条)。

補助人には、前に説明した保佐人が同意権・取消権をもつ行為について、同意権(17条1項・13条1項本文)・取消権(17条4項)を付与することができます。

特定の行為(上の1~10の行為に限りません。)に関する代理権を補助人に付与することもできます(876条の9)。

補助開始の審判(15条2項)、補助人に代理権を付与する審判(879条の9第2項)、補助人の同意を要する行為の定めをする審判(17条2項)をする場合、本人の同意が必要です。

補助の制度を利用する場合、補助開始の申立てと一緒に、同意や代理できる行為の範囲を定めるための申立てをする必要があります。

法定後見制度を利用する流れ

法定後見制度を利用するための流れは、以下のとおりです。

申立て

成年後見制度を利用するためには、まず、後見開始、保佐開始、補助開始の審判を家庭裁判所に申し立てる必要があります。

申立てをする裁判所は、本人の住所地を管轄する家庭裁判所です(家事事件手続法117条1項)。

申立てをできるのは、本人・配偶者・四親等以内の親族・検察官・市区町村長などです(7条、11条、15条、老人福祉法32条など)。

審理

家庭裁判所が、申立人、後見人などの候補者、本人から事情を聴取したり、本人の親族の意見を照会します。

後見開始・保佐開始の審判では、本人の判断能力の状況を確認するため、本人に判断能力がどの程度あるかを医学的に判定する鑑定を行うことが原則とされていますが(家事事件手続法119条1項・133条)、実際の運用では鑑定を行う事案は多くありません。

鑑定は、申立時に提出する診断書とは別に、家庭裁判所が医師に依頼して実施します。

審判

家庭裁判所は、後見などの開始の審判をすると同時に、成年後見人などを選任します。

事情に応じて、弁護士、司法書士、社会福祉士などの第三者を成年後見人などに選任することもあります。

審判に不服がある場合、2週間の間に不服申立て(即時抗告)をすることもできます(家事事件手続法123条1項1号・2号)。

もっとも、成年後見人の選任の審判について独立して即時抗告すること(東京高裁平成12年9月8日)や後見開始の審判に対する即時抗告において成年後見人選任の不当を抗告理由とすること(広島高裁岡山支部平成18年2月17日)はできません。

▶東京高裁平成12年9月8日

原審判は、事件本人が民法7条に定める「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況に在る」ものと認めて後見を開始したうえ、弁護士丙川春子を成年後見人に選任したものであるところ、上記抗告の理由によると、抗告人は、上記後見開始について不服はなく、ただ、後見人の事務のうち事件本人の介護に関する部分について、抗告人においてこれを行うのが相当であるとして、原審判中の上記成年後見人選任にかかる部分のみを取り消したうえ、本件を千葉家庭裁判所に差し戻すとの裁判を求めるというものである。

しかし、本件成年後見人の選任は後見開始に付随してされた審判というべきものであり、成年後見人選任に関する審判に対して不服申立てを認める旨の規定がないこと…からすれば、成年後見人選任の審判に対しては独立して不服申立てをすることができないと解される。
なお、本件抗告の理由によれば、抗告人は、成年後見人を2名とし、前記弁護士を財産管理担当に、抗告人を介護担当に選任することを求めているが、これについては、成年後見制度の新設に伴う改正後の民法によって、家庭裁判所に対し成年後見人の追加的選任に関する申立てをすることが可能となった(民法843条3項)のであるから、その審判手続において、複数の成年後見人選任の要否並びに選任する場合における相互の事務ないし権限の各内容、範囲及び相互の関係等を具体的に審理したうえで判断されるべき事項であり(民法859条の2第1項参照)、これらの点について抗告の対象とすることは許されない。

▶広島高裁岡山支部平成18年2月17日

…抗告人は、原審判が、本人の成年後見人として、本人の先妻の子である甲野一郎を選任したのは不当であると主張する。

しかし、審判に対しては最高裁判所の定めるところにより即時抗告のみをすることができるところ(家事審判法14条)、成年後見人選任の審判に対し即時抗告をすることができる旨の規定はない。
家事審判規則27条1項は、民法7条に掲げる者は後見開始の審判に対し即時抗告をすることができる旨を規定しているが、その趣旨は、民法7条に掲げる者で後見開始の審判に不服のある者に即時抗告の権利を認めたものであり、これと同時にされた成年後見人選任の審判に対し即時抗告を認めたものではない。
したがって、後見開始審判に対する即時抗告において、後見人選任の不当を抗告理由とすることはできず、抗告裁判所も原審判中の成年後見人選任部分の当否を審査することはできない。
法は、後見人にその任務に適しない事由があるときには、家庭裁判所は、被後見人の親族等の請求又は職権により、これを解任することができる(民法846条)などと定めるにとどめているものである。

登記

審判の確定後、家庭裁判所は、審判内容を登記するよう法務局に依頼します。

東京法務局など一部の法務局において、成年後見人などに選任された証明書(登記事項証明書)を取得することができます。

資格などの制限

後見・保佐の制度を利用すると、様々な法律により資格や職業を失うなどの権利制限に関する規定が定められていました。

しかし、令和元年6月7日に成立した「成年被後見人等の権利の制限に係る措置の適正化等を図るための関係法律の整備に関する法律」により、権利制限に関する規定の大部分が削除され、今後は、それぞれの資格・職種などに必要な能力の有無を個別的・実質的に審査し、判断することとなりました。

なお、成年被後見人・被保佐人が取締役になれないという規定(会社法331条1項2号)は対象となっておらず、今後の会社法の改正と併せて検討がされる予定です。

任意後見制度

任意後見制度は、本人があらかじめ公正証書で結んでおいた任意後見契約に従い(任意後見契約法2条1号)、本人の判断能力が不十分になったときに(任意後見契約法4条1項)、任意後見人が本人を援助する制度です。

任意後見制度を利用する流れ

任意後見制度を利用するための流れは、以下のとおりです。

任意後見契約

判断能力が不十分となる前に、任意後見受任者との間で、公証役場において、任意後見契約を締結します(任意後見契約法2条1号、3条)。

契約締結後、公証人は、契約内容を登記するよう法務局に依頼します。

任意後見監督人選任の申立て

判断能力が不十分(少なくとも法定後見制度における補助の程度)となった場合、家庭裁判所に任意後見監督人選任の申立てをします。

家庭裁判所が任意後見監督人を選任したときから、任意後見契約の効力が生じます。

申立て

申立てをする裁判所は、本人の住所地を管轄する家庭裁判所です(家事事件手続法217条1項)。

申立てができるのは、本人、配偶者、四親等内の親族、任意後見受任者です(任意後見契約法4条1項)。

法定後見制度と異なり、検察官や市区町村長は申立てできません。

審理

任意後見監督人選任の審判には、本人の同意が必要です(任意後見契約法4条3項)。

また、原則として申立ての内容について本人の陳述を聴取することが必要です(家事事件手続法220条1項)。

本人の精神状況について医師などの意見を聴く必要もあります(家事事件手続法219条)。

さらに、任意後見受任者・任意後見監督人となるべき者の意見も聴く必要があります(家事事件手続法220条2項・3項)。

審判

家庭裁判所は、任意後見契約に任意後見監督人候補者が定められていても、弁護士、司法書士などの第三者専門職を任意後見監督人として選任します。

任意後見監督人選任の申立てを却下する審判に対しては、申立人は即時抗告ができます(家事事件手続法223条1号)。

法定後見制度と任意後見制度との関係

法定後見制度と任意後見制度とでは、任意後見制度が優先されます。

任意後見契約の登記がされ、任意後見監督人が選任されている場合、本人の利益のため特に必要があるときに限り、法定後見を開始する審判ができます(任意後見契約に関する法律10条1項)。

この点、保佐開始の申立後、保佐開始の審判がされる前に、本人が任意後見契約を締結し、その登記もされている事案において、保佐を開始するためには「本人の利益のため特に必要がある」ことが必要であるにもかかわらず、この点の積極的な審理・調査が尽されたとも認められないとして、審判を取り消し、差し戻した裁判例があります(大阪高裁平成14年6月5日)。

▶大阪高裁平成14年6月5日

…任意後見契約が登記されている場合には、家庭裁判所は、「本人の利益のため特に必要がある」と認めるときに限り、保佐開始の審判をすることができる(法10条1項、4条2項)。
法は、平成12年4月1日に施行された新しい成年後見制度における自己決定尊重の理念にかんがみ、任意後見を選択した者については、民法所定の成年後見制度を必要とする例外的事情がない限り、任意後見を優先させようとするのである(任意後見監督人が選任されていないために任意後見契約が効力を生じていない場合においても、この点は変わりがない。)。

…本人両名はいずれも任意後見契約を締結しており、かつ、その登記がされている。
これら契約が、人違いや行為能力の欠如により効力が生じないのであれば、「本人の利益のため特に必要がある」かどうかについて判断するまでもなく本人両名につき保佐を開始してよいことになるが、原審記録による限り、この契約の無効原因もうかがうことはできないから、本件で、保佐を開始するためには、本人両名について、「本人の利益のため特に必要がある」と認められることが必要である。
…ここでいう「本人の利益のため特に必要がある」というのは、諸事情に照らし、任意後見契約所定の代理権の範囲が不十分である、合意された任意後見人の報酬額が余りにも高額である、法4条1項3号ロ、ハ所定の任意後見を妨げる事由がある等、要するに、任意後見契約によることが本人保護に欠ける結果となる場合を意味すると解される。
…ところが、原審判は、この点について何も判断を示していないし、原審記録を検討しても、この点の積極的な審理・調査が尽くされたとも認められない(なお、本件においては、平成12年7月5日に本件保佐開始の申立てがされ、原審の家庭裁判所調査官が調査のため同年9月12日に抗告人と面接した後で、かつ、同調査官が本人両名の担当医師から同年9月28日に診断書を受理した後に、任意後見契約が締結され、登記されたことが認められるが、保佐開始の申立て後であっても、任意後見契約が登記されたときは、保佐開始の審判をするためには本人の利益のため特に必要があることを要するのであり、また、上記の経過のみから、本人の利益のため特に必要があると認めることはできない。)。
…したがって、原審裁判所は、本人両名につき、保佐を開始するための要件の有無の審理を尽くしていないことになるから、原審判を取り消した上、本件を神戸家庭裁判所尼崎支部に差し戻すこととし、主文のとおり決定する。